はるこの祇園祭 第四話「社参の日(しゃさん の ひ)」
7月13日
よあけにザーッと雨がふって、しっとりとした、雨あがり。このころは、ふったりくもったりのくりかえしで、晴れ間は ほんのいっしゅんです。
はるこは、お母さんと手をつなぎながら、お参りついでに去年のちまきを返そうと、八坂神社へ向かいました。
「へえ。そのカランって音は、はるこにしか聞こえなかったの。」
「ふうむ。お囃子じゃないだろうしねえ。そんなに大きい音だったら、みんな気づいただろうしねえ」
メガネについた汗をふきながら、探偵みたいにお父さんはつぶやきました。
はっと立ち止まってお母さん。
「もしかして……お・ば・け・だったりして!」
「ええ!いやや、そんなん!」
「よしなさい。きみこさん、はるこがますます一人じゃねれなくなっちゃうよ」
「あはは。ほんとだ」
お母さん、今日は元気です。はるこのはなをつんとつまんで笑っています。「はるこはこわがりだもんねえ」
まったく、と口をとがらせたお父さんがおしえてくれます。
「今日はね、社参の日っていって、お稚児さんが見れる日なんだよ。今年のお稚児さんは、なんと・・・」
「しってる!ゆきちゃんちのお兄ちゃん!」
「そう、みなとくんなんだよ!」
近所でも、ものしりで有名なみなとくんが、お稚児さんと決まった日には、スーパーでも、学校でも、そのニュースでもちきりでした。
ミーンミンミン。
八坂神社につきました。
狛犬(こまいぬ)さんが、かいだんをのぼるみんなを じぃっと見つめています。すこし歩いて、舞殿(まいでん)につくと、りっぱにかざりつけられた御神輿(おみこし)も見えます。
そして……
しろい馬からおりたお稚児さんが、八坂神社の南の門から、おおぜいの大人たちに守れられて、ゆっくりとした足取りでやってきました。
みなとくんです。
「みなとくん?」
はるこはびっくりしました。
おしろいで、まっしろな顔をして、まっすぐに前をみる、あのすがたは、いつものおとなしい みなとくんとぜんぜんちがうからです。
「お稚児さんはね、神様のおつかいになるの。
大人たちに かこまれて、疫病や悪霊をはらうため、’’太平の舞(たいへいのまい)’’をまうの。
たいへんなことよ。だから、お祭りがおわるまで、みなとくんは、みなとくんじゃなくなるの。お母さんにも会えなくなるのよ」
「お母さんにも?」
はるこは、お母さんのからだにぎゅっとしがみつきました。そうして、みなとくんを見つめました。
「さすがみなとくんだなあ。しっかりしてるよ」とお父さんが言います。
でも、はるこにはわかります。
みなとくんが、せいいっぱい がんばっていることを。
いっぽずつ、いっぽずつ、
お稚児さんはすすんでゆきます。
八坂神社のおやしろの中へ。
神様のおつかいになるために。
<つづく>
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