はるこの祇園祭 第二話「ほこたて」
7月11日
「よーい! えんやらやー!」
いつもは車でぎっしりの、四条通りと烏丸通り。
その、車道に、山鉾が・・・たちはじめます!
職人さんたちが、それぞれの役わりごとに、ながくておおきな柱、床の板、屋根……いろんなものを組み立てて、鉾のかたちをつくりあげていきます。
釘(くぎ)はひとつもつかいません。
昔からのやりかたそのままに、なわでゆわえて、きれいななわもようをつくります。
「天気、しっけ、木のようす。ちゃあんと見なあかん。なんでもかんでも、きつくゆわえたらええってもんやない。あんばいがだいじやで。」
職人さんの話に、そのあとをつぐ若い人たちが、耳をかたむけます。
「よーい!えんやらや!」
くもひとつない空。
つなにひっぱられ、ゆっくりゆっくり立ち上がる鉾を、みんなしんけんに見つめています。
信号まちのタクシーの窓をあけ、「ほお!」とながめるおきゃくさんに、運転手さんがうれしそうに話をしています。
「お客さん。あれが月鉾(つきほこ)ですわ。鉾のてっぺんに、シュッとした三日月さんが光らははる。いやー、明日おかえりなんて、もったいないなあ。もうちょっと京都にいはったらええのになあ……」
そこからすこしはなれて、室町通り。
いつもの道に、おおきな鉾がたちあがっているのをみつけて、はること、ともだちのゆきちゃんは「うわあ!」と声をあげました。
「お、いまかえりか。」
扇子をパタパタとさせながら、明るい声で声をかけたのは、タケマル呉服店のおじいちゃんです。
「いやー、あっついなぁ。プール、もう始まったか」
「うん!はるちゃんすごいねんで、クロールもうおよげるねん!」
ゆきちゃんがえっへんと、はるこのじまんをします。
はるこはちょっと恥ずかしくなって、ゆきちゃんの後ろにかくれました。
「あはは、そらすごい。プールはきもちええやろなあ。ザブーンてな。むかしな、わしが子供のころ、あの鉾にぶらさがって、みんなであそんだんや。オレが船長、キミが船員、ここは海やー!船がでるでぇ!ざっぶーん…ゆうてな。あはは。」
はることゆきちゃんはびっくりして おたがいの顔を見ました。それを見たタケマルのおじいちゃんは、「おっと!」 と、おでこを扇子でうって、
「今はあかんで。ふたりがケガしたら大変や。むかしむかしのこと。なつかしいな」
うでをくんで、まぶしそうに鉾をみあげて、しみじみとおじいちゃんは言います。
「鉾がたつと、何十年もまえのことが、まるで昨日のようになる。ふしぎやな。」
どんどん町はかざられて、すっかり祭の景色です。
しってる町のはずなのに、しらない町にきたみたい。
なんだか5ミリだけ、体が空にういてるみたい。
はるこは、ふしぎなきもちで家にかえりました。
<つづく>
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