ものがたり

はるこの祇園祭第一話「祇園囃子がきこえる!」

 

6月28日

 

 

京都、夏です。いい天気です。

 

キラキラとかがやく鴨川を、はることお父さんは、自転車ではしっています。むわっとした風が、はるこのみじかい前がみをたちあげます。
もうじき夕ぐれ。
昼間はりきっていた太陽も、ゆっくりと 西の空にかたむきはじめていました。

 

 

はるこは小学校一年生になりました。
足し算も引き算もできるようになりましたし、友だちもふえました。にがてな国語のおんどくも、がんばっています。

 

「ただいまー!」
家についたはることお父さんは 冷やしてあったソーダのふたをぐいっとあけました。
プシュッ!  トクトクトク。
ガラスのコップに プチプチとちいさなあわがたちます。

 

パソコンをにらんでいたお母さんが、「おかえりー」と目をあげて「あせびっしょり!」と二人の姿を笑います。
「どうぶつえん、どうだった?」
「トラもライオンもぐったりしてたよ。あついからねえ」とお父さん。
「でも、ペンギンとはるこは、元気だったね」

 

「にゃー」
はるこの帰りをまっていた、ねこのグッチョが、すました顔で、カリカリと窓をたたきました。あれは、ベランダに出たい合図です。
カラカラカラ。
はるこはソーダのグラスをもって、グッチョといっしょにベランダに出ました。

 

 

太陽はもう、山のむこう。
ソーダの入ったグラスが、ピンク色の空をうつしています。鴨川ではむわっとしていた風が、すっかりすずしくなって、グッチョのひげをやさしくゆらしています。

 

 

……こんこんちきちん こんちきちん

 

 

あ、とおくのほうから、お囃子の音がきこえてきましたよ。

 

「おけいこ、はじまった!」
「今年は、はるこのクラスのたけくんも、お囃子はじめたそうだよ。」
お父さんが部屋から声をかけます。
「なんだかとっても鉦(かね)の音が元気ねえ。みんなはりきってる。」と、お母さん。
「ようし! 今年は山鉾ぜんぶまわるぞー」お父さんはぐびっとソーダを飲みほしました。

 

 

ピーッと炊飯器がなって、ばんごはんの時間。
今日は、近所のお店のスペシャルやきとりです。
「おいしい」が大好きなお母さんが、朝いちばんに注文をして、もらいにいく約束をしていました。

 

 

はるこのおうちは、四条通りからちょっぴりはなれたところにありますから、すぐちかくに、おいしいお店がそろっています。

 

 

「よし、行きますか!」
玄関に向かうお父さんを、はるこが追いかけます。
「つかれてない? わたしいくけど。」とお母さんが立ち上がるのを「つかれてへんもん!」と、はるこが止めます。
「お母さんはまってて。にんぷさんやからね!」
すこしふくらんだお母さんのお腹をちらっと見て、はるこはキリッとした顔をしました。

 

 

来年、はるこはお姉さんになるんです。
お母さんは、くしゃっと笑って、はるこのかみをなでました。
「じゃあ、おねがいします」
「はあい、いってきまあす!」

 

家を出て、大きなお寺の前をとおりぬけ、角をまがって、烏丸通り。何台もかさなった車が、さーっと走り抜けていきます。

 

こんこんちきちん ぴーひょろろ
そーれ!

 

お囃子の音やかけごえも、よく聞こえるようになってきました。
「ぎおんまつりだ〜!」

 

 

はるこの担任、かねちゃん先生がちょうど金曜日のおわりの会で言ってました。
「今から1000年以上もむかし、
みやこでは毎年わるい病気がはやって、たくさんの人を苦しめていました。みやこの人たちは、世の中をうらんで死んだ人のたましいに、どうか私たちに仕返しをしないでください、とおいのりをして、こわいけどとても強い牛頭天王(ごずてんのう)にも、病気のたいじをお願いしました。
それが祇園祭のはじまりです。
先生、祇園祭をみるのがはじめてなんですよ! みなさんいろいろ教えてくださいね!」

 

くるっと角をまがって、室町通り
もうひとつまがって、綾小路通り

 

 

「あ、ほら。お囃子のおけいこをしているよ。」
お父さんとはるこは、たちどまりました。まどからもれる光と、しんけんな顔で息をあわせる人たちの横顔が見えます。
「昔の人も、こうやって耳をすませたんだね」
お父さんがはるこの手を、ぎゅぎゅっとにぎりました。
はるこも、ぎゅぎゅっとにぎりかえしました。

 

 

「はい、おまちどう!」
やきとり屋のおっちゃんから、やきたてのほかほかをうけとりました。
「おおきに!」
あまいソースの匂いと、お囃子の音。
かえり道のふたりは少し、早歩き。
冷めないように、冷めないように。
お母さんが待ってます。

 

 

空に星が少しずつ見えてきました。
ひとすじのおおきな流れ星が、しゅーっとはるこの頭の上を、通りぬけていきます。

 

町もそわそわ。星もそわそわ。
お囃子は、こんちきちん。
祇園祭は、もうすぐそこです。

 

<つづく>

 

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