ものがたり

はるこの祇園祭 第七話「山鉾巡行(やまぼこ じゅんこう)」

7月17日

 

 

「おにいちゃん、大丈夫やろか」

 

いつも強気なゆきちゃんが、不安そうにくちびるをかんで、両手をにぎりしめました。となりに立つおばあちゃんが、町のみんなのよこ顔を見つめながら、うなづきます。
「だいじょうぶや。ほれ、みてみぃ。みなさんがまもってくれてはるわ」

 

 

前祭(さきまつり)の山鉾巡行が、いま、はじまろうとしています。

 

 

たくさんの見物人にかこまれて、通りのまんなかを、ぎっしりぎっしりと“長刀鉾(なぎなたぼこ)”がすすんでゆきます。
鉾のうえにのり、そとにとびだして おっこちそうなくらい ぎゅうぎゅうな大人たち。その先頭にいる、キュッと口をしめたお稚児さんは、ゆきちゃんのお兄さん、みなとくんです。

 

いまから”しめ縄切り”が行われます。

 

りょうわきを固める禿(かむろ)の手から、ほんものの刀がわたされました。おとなに手をささえられ、お稚児さんがサヤを抜きます。ギラッと光る刃が出てきます。

 

「おお!」

 

見物人が思わず声をあげました。
お兄ちゃんをみあげる、ゆきちゃんの手にも、ぐっと力がこもります。
お稚児さんのほそい手から、おもたい刀がふりおろされ、しめなわが……切られました!

 

「おおおーーー!」

 

はくしゅかっさい! 見ているひとたちの心が、ひとつになって、神様の世界との結界(けっかい)が、きられました。

 

 

山鉾がまちにときはなたれます。

 

 

巡行がはじまりました!

 

 

 

 

ぐらぐらとアスファルトがうだる中、かざりたてた おおきなおおきな山鉾が、いくつも目の前をとおりすぎてゆきます。

 

 

ぎっぎっ ぎっしぎし ぎーぎー

 

 

扇子とかけごえで ちょうしを合わせる音頭取りのおじさんたち。つなをひく曳き子さんたちのあしなみがそろいます。

 

「よーい! よーい!えんやらやー!」

 

そろいのはっぴに、かぶる傘、浴衣すがたは昔のまんま。わかいひと、としおいたひと、こどももまじって、たくさんの人たちとともに、山鉾がすすんでゆきます。

 

お父さんと見物にきたはるこは、流れる汗をそのままに、「きれい・・・」とつぶやきました。
「山鉾はね、ああやって、まちじゅうの人にとって悪さするものを、あつめているんだよ。」
「こわい!」
すると、ひとごみをかきわけて、にょっ!とタケマルじいちゃんと、タケマルばあちゃんが あらわれて、「こわない、こわない。」とにっこり笑いました。

 

「悪さをするものたちはな、こわいかおしてよってくるけれど、うつくしくて楽しいもんが大好きなんや。
悪いもんを鉾にあつめて、キラキラひらひら、ええもん見せる。そしたら…どうや。悪いもんだけちゃう、み〜んなが楽しいきもちになるやろ。」

 

するとこんどは、ぎゅうぎゅうの見物客のあいだから、かねちゃん先生が あらわれました。
「へえ!悪さをするものも、おんなじように楽しませるんですね!」
「ああそうや、いつまでも、こわいかお してられんへんようにな。」
お父さんとかねちゃん先生は、「うぉぅ」とうなり声をあげました。
はるこにうちわで風をおくりながら、タケマルばあちゃんがこう言います。

 

「山鉾がなぁ、神様がいらっしゃる町をきよめてくれはる。そうしてからな、神様がおこしになるんやで」
「つまり、神様がおとおりになる’’ろうか’’を、山鉾がピカピカにしていってるんですね!」
「はるちゃんのせんせい、おもしろいひとやな!ふふふ」

 

 

こんこんちきちん  こんちきちん

 

 

あれは……
うみこさんたちといっしょに曳き初めでひいた、鶏鉾(にわとりぼこ)
おおきなカマキリのからくり人形をのせた、蟷螂山(とうろうやま)
金色の菊の花をちりばめた、菊水鉾(きくすいぼこ)
こどもたちが まいおどる、四条傘鉾(しじょうかさぼこ)

 

めまいがするほどの、にぎやかさとうつくしさ。
あつい京都のまんなかを、祇園囃子がなりひびきます。

 

 

 

…この町に、かみさまがくるんや。
…かみさまって、どんなんやろ。

 

 

 

そのときです。
ぐわん!と目がまわり、はるこは、しりもちをつきそうになりました。

 

「あっ」

 

カラン! あの音です。

 

はっと目をあげると、山鉾巡行がつづいています。
でも……はっぴをきているのは、白いうさぎたちです!

 

(えっ!)

 

鉾の上の音頭取は、よく見るとおおきなガマカエル。
さるやライオン、しまうまがお囃子をしています。
いったいどうしたことでしょう。
はるこは目をパチパチとしました。

 

(こんな山鉾みたことあらへん…!!)

 

はるこは目をなんどもこすってみましたが、
その山鉾は、やっぱり目の前にあります。
シャン、シャン、ピィー! と楽しい笛の音がなりひびきます。

 

その、みたこともない山鉾が はるこの前をとおりすぎたあと……

 

 

 

ホイット! ホイット!

 

 

ちいさなちいさな声が、はるこの足元から聞こえてきました。ドキッとして足元をみると、かまきりたちがキャラメル箱くらいの ちいさなお神輿をかついでいます。

 

 

はるこは思わず、しゃがみこんでお神輿をのぞきこみました。すると、お神輿の鳥居(とりい)から、ちょうど はること同じくらいの子が、コロンとすがたを見せました。

 

そうして、おどろくはるこの てのひらにぽん!とのり、ニコッとわらって、こういうのです。

 

「いっしょにあそぼうな!」

 

 

 

……はるこのおうち。
「まだ、はるこは寝てるの?」
「うん、つかれちゃったんだね。」
つめたい麦茶をのみながら、お父さんとお母さんがリビングでお話をしています。
「ことしは、ぼくとはるこだけだったけど、らいねんは赤ちゃんが生まれるから、四人で見にいけるねえ」
「ははは。どうかなあ、まだらいねんの夏には、ちっちゃいもん。この子」
お父さんはそっとおなかの赤ちゃんに、言いました。
「祇園祭、君にもみせてあげたいな。元気にでておいで。まってるよ」

 

 

 

………町には、ゆうぐれがやってきました。

 

ホイット!ホイット!
ホイット!ホイット!

お神輿を肩にのせた男たちの、太い声が八坂神社にひびきます。お神輿がゆれるたび、じゃぎんじゃぎんと音がなり、もうもうとねっきがたちのぼります。

 

______神幸祭(しんこうさい)です。

 

神様をのせた三基(さんき)のお神輿が、八坂神社から、御旅所(おたびしょ)へと出発しました。

 

カメラをかまえたかねちゃん先生がこうふんしながらパシャパシャ写真をとっています。「すごい!あのお神輿に神様がのられているんだ。すごいぞ!」
パシャ! パシャ!
「つまり、これは、……神様のごうかなタクシーだ!」

 

 

ホイット!ホイット!
ホイット!ホイット!
ホイット!ホイット!

 

 

____あのお神輿にのっているのは、神様一家です。
____お父さんとお母さんと、8人の王子たち。

 

 

ホイット!ホイット!
ホイット!ホイット!…

 

 

 

その日、目ざめたはるこの手には、
星の形のこんぺいとうが……にぎられていたのでした。

 

 

<つづく>

 

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