はるこの祇園祭 第三話「ひきぞめ」
7月12日
町のあちこちに山鉾がたち、あっちの通りも、こっちの通りにも、おおきくてりっぱな山鉾が見えます。見物のお客さんもふえてきて、ふるまい酒や、つめたいお茶をだすお店がでてきました。
今日は「曳き初め(ひきぞめ)」の日。
「ひきぞめ」は、だれでも鉾をひっぱることができる、人気の行事のひとつです。
はるこはきょねん初めて、お母さんと一緒にでかけました。ことしは、お母さんはおうちでまっています。「にんぷさんやからね」と、はるこはそっと言いました。
「はるちゃん、いこう!」
おなじマンションに住むうみこさんが さそいにきてくれました。ゆきちゃんも一緒です。
「ことしもたくさん、きてはりそうやね」とうみこさん。
「うん!」はるこは、えがおで答えます。
お天気はうすぐもり。じわーっとあつい、京都ならではのお天気です。
「オーイ!うみこさーん!」
通りのまんなかで、うみこさんのボーイフレンド、リュカさんが手をふっています。とっても背が高いリュカさんは、よく目立ちます。「はるちゃんとゆきちゃんを迷子にしたらあかんから」とうみこさんがよんでいたのです。
リュカさんは、まいとし木賊山(とくさやま)の舁き子をしているのですが、今年はこしが いたくって、おうえんにまわるとのこと。
(理由は登場人物紹介ページをごらんくださいね!)
「こしをいれてグッとひくんですよ。」リュカさんは、はることゆきちゃんにアドバイスしてくれました。
「さあさあ、みなさん、ならんでや。これが綱。おもたいでぇ!」
いつもはお寿司屋さんではたらくおにいさんが、よくとおる声でみんなに声をかけました。祭の保存会の一員でもあるおにいさん。キリッと祭のかおをしています。
3人は、いろんな人にまじって、ふとい綱をもちました。
おにいさんの声にあわせて、みんないっせいに…
「よーい!えんやらやー!」
ひっぱります!
鉾をおうえんするように、祇園囃子ももりたてます。
ぎっしぎしと ゆっくり ゆっくり、前にすすむ おおきな山鉾…!
見物客は はくしゅかっさい!
「すごいすごい!こんなにおおきいのに、みんなでひいたら うごくんやねえ。」おでこに汗をひからせて、うみこさんが笑います。見守ってたリュカさんがグッと親指をたてます。
「よーい!よーーーーい!えんやらやー!」
大人もこどもも、あの人もこの人も、いつもとすっかりちがうかお。
えがおが夏の日にてらされて、キラキラとしています。
「あーあ、えらい汗かいて。ほら、かき氷たべよしや。」
タケマルじいちゃんのおよめさん、タケマルばあちゃんが、みんなにかき氷をふるまってくれました。
「うちメロン!」ゆきちゃんが元気よく答えます。
はるこはいちご味。うみこさんはレモン味です。
そして、リュカさんは…
「ぜんぶやろ」とウィンクするタケマルばあちゃん。去年もそうオーダーしたのを、ちゃあんと おぼえていたのです。「フウ!」かおいっぱいをえがおにして、リュカさんはカラフルなかき氷をうけとりました。
「いただきまーす!」
…そのときです。
カロン!
はるこの耳に、聞いたことのない音が聞こえてきました。
「ゆきちゃん、この音なに?」
「え?」
カラン!
「ほら!この音! うみこさんも聞こえるやろ?」
「ううん。どないしたん、はるちゃん」
カリン!
すずやかで、ちょっとだけぶわあんと耳にひびく音。しかも上から聞こえてきます。はるこはぐるっと空を見ました。まっすぐにのびる鉾が見えるくらいで、ほかにはだれもいません。
「はるちゃん、はよ食べな、こおりがとけるで」
「うん・・・」
いったい、なんの音でしょう。
シャコシャコシャコ。
いちご味のかき氷をスプーンでくずしながら、はるこは、なんどもなんども空を見上げるのでした。
<つづく>
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