はるこの祇園祭 第八話「こんぺいとうの後祭(あとまつり)」
7月20日
空はすっきり晴れて、さて、月曜日。
学校です。
「いま、この町には神様一家がきているんですよ!」
かねちゃん先生が黒板に文字をかきます。
「かーみーさーまーふぁーみーりーぃ、と。」
おとうさん、おかあさん、8人のこどもたち。
かねちゃん先生、ちょっと絵はへたっぴですが……黒板に わかりやすく書いてくれました。
「この一家は、3台のお神輿にのって みやこにやってきて、24日の還幸祭(かんこうさい)まで、この町にいらっしゃいます。」
「はーい! せんせい、かみさん、どこにとまってはるん?」
「ほほぉ! いいしつもんですねぇ!」
「うち、五重の塔のいちばんうえにとまってみたい!」
「それなら、ぼくは、二条城!」
ワイワイとにぎやかな教室で、はるこはぼんやりと、
(うちも おみこしにのってみたいなあ…)
と思いました。
(あれ…? おみこし…? )
はっ!と顔をあげたはるこを、かねちゃん先生がめざとく見つけました。
「お! はるこさんは、どこだとおもいますか?」
「え! ええっと…きょ…京都タワー…」
「それは先生も とまりたいですねえ! 」
キーンコーンカーンコーン
「それではみなさん、よい夏休みを!」
「ただいまー!」
ばたばたばたっと家にかえって、はるこはべんきょうづくえのひきだしにしまった、”こんぺいとう“を取り出しました。あの日、にぎりしめて ねていたのに、ふしぎととけることもない”こんぺいとう“。
「もしかして、あの子… かみさまの…」
すると、トトトッとやってきたねこのグッチョが「にゃー!」と大きな声で はるこを よびました。
パッとはるこがグッチョをみると……
グッチョの両耳を ちょんとにぎって、小さなあの子がせなかにまたがっているのです!
「はるちゃん! いっしょにあそぼ! 」
はるこは、ストン! としりもちを付きました!
「……かみさま、うちにとまってた…… 」
おどろいたはるこを見たその子は、ほほをピンク色にそめて、コロコロと笑いだしました。すると、ふしぎなことに、はるこの部屋に ふわふわっと花がちるのです。
「うち、はるちゃんとあそびたい。いっしょにそといこ!」
「まだ一年生やからあかんねん! こどもだけでそといったら!」
「わかった!」
そう答えたとたん、その子はグッチョの背中からぱっと消えて、そのすぐあとに…
ピンポーン!
玄関のチャイムがなりました。
「はあい」とお母さんがこたえるのといっしょに、ガチャ! と玄関のとびらがひらいて、
「はーるーちゃんー、あーそーぼー!」
そりゃもう元気いっぱいの、うみこさんがあらわれたのです……。
「いってきまあす!」
玄関のとびらがしまるとすぐに、うみこさんは、ざばーっと水をかぶったみたいになって、あの子の姿にもどりました。グッチョのせなかでみたときは、手にのるくらいの大きさだったのに、いまは、はること同じ背の高さです。
よくみると、じめんに足をつけずに、ふわっふわっとじょうずに歩いています。
「ほんまにかみさまなんや…!」
はるこがおどろくと、やっぱりうれしそうに、その子は笑います。わらうたびに、花がふって、道につもって、そうかと思うと雪のようにとけてなくなります。
「なまえ、なんていうの?」
とはるこが聞くと、くるっとその子はふりかえって、
「なにがいい?」と聞きました。
「えっと…ふっちゃん! ふわふわしてるから、ふっちゃん!」
「じゃあそれがいい! うち、ふっちゃん!」
23基の山鉾がめぐった町は、これからが後祭(あとまつり)。それぞれの町で職人さんたちが、10基の山鉾をたてています。
新町通り。南観音山(みなみかんのんやま)です。
きぼりの白いはとがかざられた、りっぱな松の木が曳山のまんなかから、空へ向かってのびています。
いまから、たくさんの見物客が ひきぞめをするところ。
こんこんちきちん。お囃子がにぎやかになっています。
よーい、えんやらやー!
そーれ!
たくさんの人がつなをひっぱり、ぎっしぎっしと鉾がうごきます。
ふっちゃんは、「うわあ!」と声をあげて、たたっと空の上にかけあがりました。「あっ」とはるこがおどろいているあいだに、もう松の木のてっぺんです。
ふっちゃんは、ぐーんとせのびをして、ゆっくり町をみわたすと、お囃子の音にあわせて、くるくる、ふわふわ、ぴょんぴょんとおどりはじめました。
こんこんちきちん こんちきちん
ふっちゃんのからだから、キラキラとやわらかな光がはなたれます。昼間なのに、すずしい風がふき、ひきぞめのみんなの汗をすーっとかわかします。
ときどき、とおり雨のような つめたい水しぶきをあげておどるすがたは、とてもとても きれいです。
はるこは思わず、ふっちゃんにむかってパチパチと拍手をしました。
「はるちゃん、どこみてんのや」
のんびりと ひきぞめを見ていたタケマルじいちゃんが、ふしぎそうに上をみあげました。
「ふっちゃん! かみさまの子どもなんやで!ほら、おどってはる!」
はるこがゆびさす方向を、じーっと見て、タケマルじいちゃんはちょっぴり さみしそうに笑いました。
「そうかそうか。はるちゃんには見えるんやな。ええなあ。」
よーい! えんやらやー!
ふっちゃんはおどります。
写真にはのこせない、祭りが今日も 、そして明日も、つづいていきます!
<つづく>
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